「ミャンマー」といえば、2010年に女性政治家である「アウン・サン・スーチー」さんの軟禁が解除されました。
この頃は日本のテレビや新聞で大々的に取り上げられたことからミャンマーの名前を聞いた方が多いのではないでしょうか。
スーチーさんは1988年にNLD(National League for Democracy)を結成して民主化運動を率いて活動しました。
15年もの間、軍事政権下で自宅軟禁されていましたね。
ミャンマーはASEAN諸国の中でも、経済が今後発展していくと言われている「CLMV諸国」の一角も担っています。
東南アジア最後のフロンティアとも言われていますね。
東南アジア諸国連合(ASEAN)の中で先発ASEAN(シンガポール、ブルネイ、マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン)に比べて
比較的経済開発の遅れた後発ASEANと呼ばれるカンボジア(Cambodia)、ラオス(Laos)、ミャンマー(Myanmar)、ベトナム(Vietnam)の4か国のことで、
労働賃金など経済的な格差が周辺国との間にあり、この点では産業の競争力を強めたい企業にとっては産業立地国として魅力的であり、東南アジアの最後のニューフロンティアとして注目を集めている。特にカンボジア、ラオス、ミャンマーのCLMは、安価な労働力とタイにある産業集積地を結び付けることによって、「タイプラスワン」という新しいビジネスモデルを創設する可能性が高まっている。
(引用:CLMV)
最初に簡単にミャンマーの概要を見てみましょう。
- 人口:約5,480万人
- 国の土地面積:68万㎢(日本の1.8倍)
- 宗教:仏教(主要)
- 一人あたりGDP:1,527USD
となります。
特筆すべきは一人当たりGDPが1,527USDであることです。
国の経済は一人当たりGDPが1,000USDを超えた時に急激に成長するとされています。
つまり、ミャンマーは現在経済成長の「トリガー」が引かれたところなのです。
投資家の方には気になる国といえますよね。
そんなミャンマーを今回はファンダメンタルズ分析していこうと思います。
Contents
ミャンマーの政治と財政収支
まずはミャンマーの各指標を見ていく前に、政治の側面からより深くミャンマーの国柄を押さえていきましょう。
まずは、冒頭でも触れた女性政治家アウンサン・スーチーさんの話題から入りたいと思います。
ミャンマーでは2016年3月にスーチーさん率いるNLD(国民民主連盟)が政権を獲得しました。
しかし、ミャンマー憲法の規定では、外国人の家族を持つスーチーさんは大統領になることができませんでした。
その代わりに「国家顧問」の役職が新設され、スーチーさんは事実上の政権トップの立場を確立しました。
この政権交代はミャンマーでは歴史的な出来事でした。
しかし、政権交代によって国には混乱が起こりました。
例えば、高層ビルの開発・建設計画(前政権時代に認可取得済み)が白紙に戻ったこともあり、不動産市場が成長する局面でありながらも低迷しています。
以前は海外から投資呼び込みをするにも投資認可に関する手続きが曖昧であり、外国企業も投資機会がなく、資金調達に時間が掛かっていました.。
しかし、2016年10月に新投資法を成立させたことにより、投資認可に関する手続きが明確化され、現在積極的に海外からの投資を呼び込んでいる状況となります。
今後海外からの資金流入でミャンマーの産業も成長していくものと考えられています。
国の財政を見ると、ミャンマー政府は財政再建を積極的に進めていますが、あまりうまくいっていないことがよくわかります。
2016年から財政収支は赤字拡大傾向にあり、今後やや減少見込みですがGDP対比公的債務残高は増加見込みです。
財政収支は現状良いとは言えない状態です。
上記で触れた海外投資を取り込みながら、財政の健全化を進めていますが、もう少し時間が掛かりそうですね。
ここまでのミャンマーの歴史も簡単に年表で把握しておきましょう。
年 | 事項 |
---|---|
1945年 | 日本軍撤退 |
1947年 | アウンサン将軍暗殺 |
1948年 | ビルマ連邦共和国として独立 |
1949年 | カレン族の大反乱 |
1956年 | 第2回総選挙、政党抗争強まる |
1959年 | ビルマ共産党、カレン族との抗争強まる |
1962年 | ビルマ国連代表ウ・タント氏、国連事務総長に就任(?1972年) |
1962年 | ネ・ウイン将軍による軍事クーデター |
1972年 | 新憲法採択、ネ・ウイン大統領 |
1988年 | 民主化運動拡大。国軍が全権掌握、「国家法秩序回復評議会(SLORC)」設置。民主化運動を武力弾圧、死傷者多数 |
1989年 | 軍事政権、国名をミャンマーに変更。国民民主連盟(NLD)の議長逮捕、書記長アウンサンスーチーを自宅軟禁 |
1990年 | 総選挙。NLDが議席の8割を占める圧勝。軍事政権は総選挙結果に従わず |
1991年 | アウンサンスーチー氏にノーベル平和賞 |
1993年 | 軍事政権、「制憲国民会議」設置。NLDは批判 |
1997年 | 米国経済制裁 |
1997年 | ASEAN加盟 |
1998年〜 | NLD、軍事政権との対決姿勢強める |
2006年 | 首都をネーピードーに遷都 |
2007年 | 日本人記者を治安部隊が射殺 |
2010年 | 国旗を変更 |
2010年 | 総選挙を実施。NLDは結果を批判 |
2010年 | スーチー氏の自宅軟禁が解除 |
2011年 | テイン・セイン氏、大統領就任 |
2012年1月 | 大統領、政治犯一部釈放 |
2015年 | 総選挙でスー・チー議長率いるNLDが全議席の6割弱を獲得。 |
2016年 | NLD党員のティン・チョウ氏を大統領とする新政権が発足。アウン・サン・スー・チー氏は,国家最高顧問,外務大臣及び大統領府付大臣に就任。 |
2017年 | 南西部で国軍と武装勢力の衝突、大規模なロヒンギャ難民が発生。少数民族との和平協議。 |
出典:JILAF
2006年に首都を遷都、2010年に国旗を変更するなど、まだまだ国として不安定なことが良くわかりますね。
まさにこれからの国、ということでしょう。
ミャンマー経済の現状、GDP成長率の推移を把握しよう
まずは1998年からのミャンマーの経済規模の拡大の過程をご覧ください。
1999年から2008年まで10%を超える経済成長を遂げています。
リーマンショックが起きた2008年はさすがに成長率を落としましたが、
2009年には5%を超え、その後も5%以上の成長を続けています。
2020年はご存じコロナの影響で成長率が3%程度に落ち込んでいます。
さらに、2021年には突如クーデターが起きました。
その影響で2021年はマイナス10%を下回る経済成長率となることが見込まれています。
しかし上記の通り、まだまだ一人当たりGDPは1000USDドル台であり経済成長トリガーが引かれています。
「中所得国の罠」の一人当たりGDP10,000USDまでは遠く、国の状況が落ち着けば今後の経済成長が見込めそうですよね。
「中所得国の罠」とは、多くの途上国が経済発展により一人当たりGDPが中程度の水準(中所得)に達した後、発展パターンや戦略を転換できず、成長率が低下、あるいは長期にわたって低迷することを指す。
これは、開発経済学でゆるやかに共有されている概念であり、その端緒は世界銀行が07年に発表した報告書にあるとみられている。(引用:内閣府)
ミャンマーの人口は今後も増加する?人口推移、人口ピラミッドを考察
今後の経済の動向を予測するに当たって、最も重要なのは「人口」になります。
人口が増えなければ内需は拡大せず、消費活動、労働活動が活発化せず、経済は落ち込んでしまいます。
例えば、現在の日本がそうですよね。
以下の通り人口は下落傾向です。
さて、本題のミャンマーの人口推移を見ていきましょう。
1998年からほぼ一直線に伸びており、2020年現在で5,480万人を超えています。
規模こそ中国やインドの比ではないですが、人口が増加しているというのは、
現在の経済成長水準を押し上げる大きな要素となります。
では今後も人口は増加していくのでしょうか?
次に人口ピラミッドを見ていきます。
若くなればなるほどボリュームが増えています。
14歳以下が減少し始めていることが気になるところではあります。
しかし、消費活動、労働力となる世代が年齢が高くなるまではしばらく時間がありますので、
中所得国の罠に差し掛かるまでは順調に経済成長もしていきそうです。
人口が今後も増加するかは、毎年のピラミッドを見ながら判断していくことになりそうです。
ちなみに2050年には6,300万人にまで人口は増加し、それをピークにその後は減少していくという想定になっています。
ミャンマーGDPを支えているのは?
ミャンマーは2011年に民政移管を行いました。
それ以降海外からの投資が流入し、外資企業の誘致が進んでいます。
ミャンマーで新投資法が成立
ミャンマーでは、民政移管後の2012年、それまで約50年間続いた閉鎖的な軍事政権下で大きく後れを取った経済の発展を目的として、24年ぶりにForeign Investment Law(外国投資法)の改正を行いました。
本改正により、税務上の恩典および土地の長期リース期間の強化を図り、外国企業により有利な投資機会を提供するとともに、それまで曖昧だった投資認可に関する手続きが明確になりました。
新投資法は外資、内資を問わず、また既存、新規を問わず、ミャンマー国内の全ての投資に対して適用されます(新投資法第4条)。ここで、外資か内資の違いは、依然として外資規制が存在するため重要となります。
外資の定義は会社法に従うものとされており、現在こちらも改正議論中の新会社法の下では、外国からの出資割合を35%とすることで検討されています。
現行会社法では、1株でも外国からの出資があれば外資規制が適用されています。
しかし、新会社法および新投資法では、マイノリティーの出資であればミャンマー内国会社と見做(みな)され、それゆえ外資規制の対象外となる可能性があり、これは投資形態の選択肢が大きく増えることを意味します。
外資系の中でも、日系企業も進出を試みていますが、現地人材の確保・育成がまだまだ難しく、苦戦している状況です。
現在進出している大手企業の一例として、以下のような企業が挙げられます。
進出企業(以下は一例、詳細はコチラ) |
JFEエンジニアリング |
ヤクルト |
三菱商事 |
レオパレス21 |
日本コンクリート |
KDDI |
ギャップ |
NTTデータ |
イオン |
東急建設 |
パナソニック |
住友商事 |
スズキ |
ミャンマーの産業別GDP構成は、
- 第一次産業(農林水産): 26.3%
- 第二次産業(鉱業、製造、建設、電力): 34.7%
- 第三次産業A(卸売、小売、運輸): 19.6%
- 第三次産業B(飲食、宿泊): 13.3%
- 第三次産業C(情報通信、金融、不動産、その他サービス): 6.2%
となっています。
製造業に関しては労働集約型産業を抜け出そうとしている中国やベトナムが担っていた、委託加工や生産がミャンマーにシフトしている状況と言えます。
ミャンマーも一人当たりGDPが10,000USDを超える頃、つまり、中所得国の罠の水準まではこの他国からの、
労働集約型産業のシフトの恩恵に預かる形になるでしょう。
ミャンマーはこれまで農業の比率が高い状況でしたが、現在の経済成長を牽引しているのは製造業とサービス業となっています。
新興国投資を考える際に最もキャピタルゲインを狙える水準にあると言えるでしょう。
次に需要項目別のGDP構成比も見ていきましょう。
2013年からは特に「財貨・サービス」の輸入が大きなマイナスになっていますね。
このマイナスを他の産業で支えなければなりません。
国民の消費を測る「消費支出」が大きく、「投資」は消費を下回りますので、ミャンマーは内需が強いことがわかります。
これがミャンマーの経済成長を支えている大きな要因となります。
「内需が強い」というのは他の国に依存せず、自国だけで成長していけることを意味しますので、投資を検討する上では安心感があります。
次は上記需要項目でも表されている財貨・サービスの輸出、輸入に係る貿易を見ていきましょう。
ミャンマーの輸出入先・他国に依存性はあるのか?中国にやはり依存
貿易相手を見る理由としては取引相手国による経済的な影響の有無を確認することにあります。
様々な国とバランスよく取引をしていれば良好といえます。。
以下はミャンマーの貿易を占める主要な輸出入産品と貿易相手国となります。
輸出は、
- 鉱物性燃料
- 医療・付属品
の2つで45%を占めます。
輸入は鉱物性燃料のほかに製造業が活発です。
これは上記で述べた、中国やベトナムなどからの産業シフトによる、まだまだ人件費の低いミャンマーの労働集約産業が活発になっていることが理由ですね。
さて、冒頭で他国に依存していないかを測る理由として、貿易相手先を見ることが重要と述べましたが、ミャンマーは中国に大きく依存しています。
中国経済次第でミャンマーにも大きなインパクトが発生します。
ミャンマーへの投資を考える際には中国の動向もセットで追っておく必要があります。
この記事のまとめ
ここまでミャンマー株式投資を考える上でのファンダメンタル分析をしてきました。
この記事のまとめとしては、
- ミャンマーは東南アジア最後のフロンティアとも言われている。
- 現在一人当たりGDPが1,527USDと経済成長の「トリガー」が引かれたところ。
- 財政収支は良い状況とは現状言えず、政府は中銀ファイナンスを削減するなど改善を図っているがまだまだ健全化には時間が掛かる見込み。
- GDPは1999年から2008年まで10%を超える経済成長をしていたが、現在はコロナ、クーデターの影響もあり低迷中。
- 「中所得国の罠」の一人当たりGDP10,000USDまでは遠く、今後の経済成長が見込める。
- 人口は現在5,480万人を超え、2050年までには6,300万人にまで達する見込みだが、やはり他新興国と比べると規模が小さいのは否めない。
- 現在農業中心から製造業に大幅にシフトチェンジ中。
- ミャンマーの貿易相手は中国に大きく依存しており、中国経済の影響を大きく受ける。
と言ったところです。
新興国の株式投資をする際には必ず「経済」と「財政」をセットで分析していきましょう。