新興国の株式投資を行う上で、為替の動向を注視することは非常に重要になります。
例え現地通貨ベースでプラスの成績を確保したとしても、現地通貨が下落した場合、
円貨ベースでは投資損益がマイナスになる可能性がある為です。
今回は何故為替が重要になってくるのか?
為替の見通しを分析する上で重要となる実質金利とは何か?国際収支とは何か?
という点について、わかりやすく説明していきたいと思います。
Contents
何故為替の動向が重要となるのかを例を用いて説明
まは為替の動向が何故重要となるのかという点について、
簡単に米国株にUSD(米ドル)建で投資した場合の例を用いて説明します。
1USD=100円の時に米国のある銘柄に10,000USDつまり100万円分投資したとします。
10,000USDで購入した銘柄が5%上昇して10,500USDになったとしましょう。
一方、この間ドル安円高方向に為替が動き1USD=90円になっていたとしましょう。
するとUSD建では10,500USDに上昇するものの、円貨建では94万5000円に減少してしまうのです。
為替を含めた上で利益を確保できないと意味がないので、外貨建の投資を行うのであれば為替の見通しは非常に重要になっているのです。
為替を見通す上で重要な実質金利についてわかりやすく解説する
それでは為替の長期レートを決定する上で、重要となる実質金利について説明していきます。
実質金利は名目金利とインフレ率によって算出されます。
実質金利 = 名目金利 - インフレ率
名目金利というのは、現在市場で取引されている金利です。
例えば米国債の10年金利や、日本国債の10年金利といったものです。
では何故この名目金利からインフレ率を引いたものが実質金利なのかを考える必要があります。
インフレ率というのはモノの価値が現金に対してどれほど上昇したか、
逆に言えば 現金の価値がどれだけ下落したかという指標です。
今100円で購入できている缶ジュースが来年110円になっていたらインフレ率は10%ということです。
何故実質金利が実質といわれているかというと、
例えば貴方が100万円を保有しており日本の名目金利が5%だったとしましょう。(実際は0%近辺ですが)
100万円が1年後に金利込みで105万円になります。
しかしインフレ率が3%だったとします。つまり現金である日本円の価値が3%下落したとします。
その場合、1年後には5%の金利を得られる一方、3%現金の価値が下落しているので、
『実質的』に5%-3%=2%の価値を得られることになります。
その為、実質金利=名目金利-インフレ率として算出されるのです。
何故実質金利が為替レートに影響をあたえるのか?
先程の実質金利の説明で、実質的に、その国の国債を保有した場合にいくら儲かるかという指標であるか、
ということを示したのが実質金利であるということが明らかになりました。
では貴方は実質金利が10%の国Aと実質金利が5%の国Bの国があった場合、
どちらの債券に投資を行いますか??
当然、大きな利益獲得を目指すことができるA国の債券に投資を行いますよね。
A国の債券に投資を行う為には、当然A国の通貨を保有しなければいけないので、
A国通貨高になるのです。
つまり実質金利が高い国の通貨は低い国の通貨に比べて通貨価値が高くなりがちになります。
新興国の中には高金利の国も多いですが、それ以上にインフレ率が高ければ、
逆に通貨価値は下落するのです。
現在日本の10年国債金利は0%でインフレ率は1%程度なので実質金利は約▲1%になります。
一方、10年国債金利が10%と非常に高かったとしてもインフレ率が20%の国があったとします。
ぱっとみ金利が高いので魅力的に見えますが、実質金利は▲10%となり通貨価値は対円で下落圧力をうけることになるのです。
為替を見通す上で重要な国際収支についてわかりやすく解説する
実質金利と同じく長期的な為替の動向を見通す上で重要な国際収支についても説明していきたいと思います。
フィリピンの為替リスクについての記事でも申し上げた通り、フィリピンは現在国際収支の悪化によって為替が下落しております。
国際収支とは何なのか??
国際収支とは経常収支と金融収支の合計です。
国際収支 = 経常収支 + 金融収支 で表されます。
それでは、それぞれの構成項目についてみていきましょう。
国際収支を構成する経常収支とは??
経常収支というのはどれだけの金額を海外から稼いできているのかという指標です。
構成要素は以下の5つに分けられます。
貿易収支:
貿易によって稼いだ金額で輸出から輸入を引いて算出されます。
サービス収支:
モノ以外の旅行等のサービスの収支の合計。
観光資源が豊富な国ではプラスになります。
所得収支:
所得収支は海外への投資によって受け取る利子や配当金の本国への引き戻しや、海外への出稼ぎ労働者への本国への送金。
日本は海外に投資を行う世界最大の対外純債権国なので、毎年配当や利子が大量に入りプラスですが、
投資を積極的に受け入れている側の新興国では海外に配当金・利子が流出するんおでマイナスになります。
経常収支移転:
対価を求めない無償の海外からの協力金受け入れです。当然日本はマイナスですね。
一方新興国では援助を受けている国が多いのでプラスになります。絶対額としては小さいですが...。
国際収支を構成する金融収支とは??
金融収支とは海外からいくら投資を受け入れているかという指標で、
直接投資と証券投資によって構成されています。
直接投資についての野村證券の記述をみていきましょう。
海外で経営参加や技術提携を目的に行う投資のこと。現地法人の設立や外国法人への資本参加、不動産取得などを通じて行う。当該国では雇用の創出、技術移転などが期待できることから、特に開発途上国などで積極的な受け入れを行っている。英語表記はForeign Direct Investment(FDI)。
(引用:野村証券)
つまり直接的に工場や現地法人を設立して実態を伴って進出する金額の総計ということです。
一方、証券投資というのは我々が株式や債券を投資するように、海外の個人や企業からどれだけの
投資を受け入れているかという指標です。
つまり、いくら海外から稼いできているか?いくら海外からお金を受け入れているかの合計が国際収支です。
何故国際収支が為替レートに影響を与えるのか?
国際収支がプラスということは海外から外貨を稼いでいるということです。
外貨を稼いでいるということはまず第一に国内で使用する為に外貨を売って国内通貨を買う需要が発生するので、
国内通貨高圧力が高まることになります。
更に国外から外貨を稼いできているので中央銀行の外貨準備高が多くなります。
外貨準備高が大きくなれば、為替レートが大きく下落した時に為替レートを防衛する余力が高くなります。
つまり為替レートが大きく下落した場合に、
保有している外貨を売り自国通貨を買う介入を行うことにより、
自国通貨を防衛することが出来るのです。
外貨準備高が多い国の通貨は売り崩すことが出来ないので、
売り仕掛けを受ける可能性も低くなるので安全性も高くなるのです。
今回のまとめ
為替の長期的な動向を見る上で、実質金利と国際収支は抑えておいた方がよい指標です。
実質金利が高ければ高いほど、国際収支のプラスが大きければ大きいほど、
通貨の安全性が高く底堅く推移していくことが見込ま為替リスクは低いといえるでしょう。