新興国株式投資を行う上で、見逃せないのが為替リスクです。
たとえ現地通貨ベースで大きく上昇したとしても、それ以上に現地通貨の価値が円に対して下落したら円貨ベースでの価値は下落します。
私は仕事の経験上、新興国の為替動向の長期見通しをたてていたこともありますので、インドネシアの通貨ルピアについて分析していきたいと思います。
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インドネシアの通貨ルピアと通貨制度
まずはインドネシアの通貨ルピアについて簡単にみていきましょう。
インドネシアルピアって??
まずインドネシアルピアという名前を聞いて、非常にインドルピーににているなという印象を受けます。
それもそのはずでルピアは元々インドのルピーが名前の由来となっております。
為替業界ではインドルピーがINRと表記されるのに対してインドネシアルピアはIDRと表記されます。
1600年代からの東インド会社による経済的支配によってインドルピーが大量に流入してきたことが由来です。
日本統治をへて1949年に正式にインドネシアの通貨になりました。
インドネシアの通貨制度
日本円や米ドルのような主要通貨は価格決定を市場に任せる完全な変動相場制をしいています。
インドネシアも大枠では変動相場制なのですが、管理フロート制を敷いています。
管理フロート制とは通常時は市場に価格を任せるものの、大幅ね変動が起きる場合には介入して変動をおさえますよという制度です。
以前分析したマレーシアの通貨リンギットと同じですね。
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新興国通貨の中で比較的強い動きをするルピア
これからの見通しを考える前に、今までの値動きについておさらいしていきます。
2010年時点での為替を対ドルで100として統一するとインドネシアは70程度に留まっています。
この間米ドルがリーマンショック時の緩和から抜け出し金利を引き上げる段階だったこともあり、米ドルが最強通貨の時代でした。
新興国通貨は全般的に米ドルに対して売り込まれましたが、比較的下落幅は少なかったといえるでしょう。
これは前回インドネシアの経済・政治でみてきたとおり、経済が堅調で政治も安定していることが海外投資家に評価されたことが要因だと考えられます。
また後ほど見ていきますが通貨が安定していることが、海外からインドネシアに証券投資が流入する要因にもなっています。
インドネシア中央銀行の金融政策
インドネシア中央銀行に新しく2018年5月に就任したワルジヨ氏は通貨の安定を最優先課題に掲げています。
現在の世界の金融政策は先進国の金融政策を中心に動いています。
リーマンショック以降、米国を始めとした先進諸国が金利を超低金利に引き下げました。
金利が低い環境を嫌気し、先進国の投資家はより高いリターンの高い新興国に投資をしていきました。
しかし景気の上昇を確認した米国が一早く利上げし、続いて欧州が利上げに踏み切る構えを見せ始めています。
結果的に先進国の資金が自国に還流を始めているのです。
為替が急激にルピア安となってしまうとお、海外からの投資を呼びこむことができませんし、
通貨安によって輸入物価が上昇しインフレが発生するので国民の消費も下押しとなってしまいます。
その為、中央銀行は自国の金利を引き上げ相対的に通貨ルピアの魅力を高めて通貨下落を防衛しようとしているのです。
以下は政策金利の推移ですが、新総裁就任後為替の安定をメッセージとして発信する為に、すぐ利上げを実施して中銀の本気度を示しています。
中央銀行の政策によってルピアは下支えされ大幅な下落は避けられるとみています。
インドネシアのインフレ率の推移
世界の中央銀行ではインフレターゲットを金融政策の目標とするのが一般的になりつつあります。
日米欧の中央銀行はインフレ率2%を目標としてインフレ率が2%を超えると引き締めにはしり下回ると緩和的政策に舵をきります。
インフレというにはモノの価値が上がることですが、正常なインフレは国民がもっとモノやサービスが欲しいと望むことにより発生します。
すると国民の消費が増えて経済も内需拡大という形で健全な成長をしていくのです。
先進国では現在、インフレ2%というのが健全な成長のバラメーターであると考えているのです。
経済成長の体温計みたいなものと考えられているのですね。
インドネシア中銀はインフレのターゲットを2.5%±1.0%に設定しています。
新興国では経済発展が著しく、需要の増加が激しいので先進国より高めの水準に設定しています。
現在インフレ率は中銀の目標値ド真ん中なので、インフレ率というよりは現在は為替水準の安定に力を入れているのも頷けます。
インドネシアの国際収支から分析
国際収支は読んで字の如く海外からどれだけお金を引っ張ってこれたかという指標です。
海外からお金を引っ張ってきたうちの全部ではないにしても一定量は自国通貨であるインドネシアルピアに変換するので、国際収支がプラスであればルピア高に傾きます。
国際収支というのは経常収支と金融収支に分かれます。それぞれについて見ていきましょう。
インドネシアの経常収支
経常収支はその国が、他の国からビジネスでどれだけ稼いできているかという指標です。
経常収支は大きく以下三つに分類されます。
貿易収支:貿易による貿易の利益
サービス収支:旅行等のサービスの合計
所得収支:海外投資先企業からの配当金等の国外流出
インドネシアの経常収支は以下のようになります。
資源価格の暴落以降貿易収支が縮小してしまい経常赤字が続いています。
マイナスの要因となっているのは所得収支のマイナスです。
これは海外からの資金を受け入れている限りは投資収益が投資元本国に還元されるので致し方ないことではあります。
投資を受け入れるというとは所得収支のマイナスが膨らむことを意味します。新興国では一般的ですね。
一方日本のような先進国は海外企業に投資をしている為、その配当金を日本に還流する流れが活発で所得収支が大幅にプラスになっています。
インドネシアの金融収支
金融収支は海外からいくら投資を受け入れたかという指標で、
実質的な工場設立なども行う直接投資と、株式投資だけを行う証券投資に分かれます。
金融収支はインドネシアの経済が堅調で政治が安定し、為替が比較的安定していることから投資流入超となり経常赤字をカバーしております。
国際収支から見るルピアの行く末
経常収支の赤字を金融収支がカバーしており、直近では通貨安圧力はかかりにくい状況となっている。
しかし、金融収支のプラスが続くと結果的に所得収支のマイナスの拡大を招くこととなる為、長期的には経常赤字のマイナスが上回ることが予想される。
その為、貿易収支の改善がなければ長期的にはルピア安圧力が働くこととなる。
総括ーインドネシアルピアの見通しー
インドネシアルピアは経済・政治が安定していることもあり比較的新興国通貨の中では堅調に推移している。
成長の為の投資を受け入れる為に、為替の安定を中銀が注力していることもあり、極端な為替安は起きにくいとみます。
インフレ率、国際収支は現状下押しも上昇圧力も掛からないニュートラルな状態となっている為、極端に気にする必要はないと見ます。
今後の値動きは米国の金融政策によるところが多く、このまま利上げを続けるのであれば徐々に米国高新興国通貨安の流れをうけると思われます。
しかし上述のように、下げ幅は他の新興国に比べて限定的となると考えます。
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